柔軟性への迷信をなくしたい
ハッピーな伝言板2021年12月号
日本人は「柔軟信仰」が非常に強い傾向があります。おそらくその原因は、日本における体育の生い立ちにあると思われます。今でこそ日本にはあらゆるスポーツが取り入れられ行われていますが、第二次世界大戦まではヨーロッパで行われている運動の方法や考え方が主流でした。
このころのヨーロッパでの運動(体育)の主流は「体操」でした。日本にもその体操が輸入され学校での名称も今のように「体育」ではなく「体操」という呼び方をしていました。ところが、終戦後アメリカを中心にした諸外国から各種のスポーツが導入され行われるようになり、体操という1種目の名称では通用しなくなり、学校における運動の総称として名称を「体育」としました。
しかし、それまでの指導者は、体操を行っていた者がほとんどでカラダが一般人よりも柔らかく生徒にもそれを求め、生徒のほうもそれを範として真似をしたことが「カラダが柔らかいことがいいことだ」とされてきた原因ではないかと思いますが、カラダの柔らかさを必要とする運動種目は、体操競技や新体操、クラシックバレエなど一部の種目だけです。カラダは柔軟な方がいいという迷信は今や不要であるばかりか、無理な柔軟運動はかえって「害」になります。
1.こんな運動はしない方がいい
膝を伸ばして前屈をして手が床に届くと「すごい」と拍手がわくシーンをTVでよく見かけますが、この運動は健康とは何の関係もないばかりか、かえって腰を痛める原因にしかなりません。なぜなら腰の骨は前方にカーブしていて、前屈すると反対側に曲げられるからです。
さらに、子供時代に「ブリッジ」をすることもよくありません。小学生ではまだ人間らしい背骨(S字カーブ)ができていないので無理に背骨を後方に曲げるような運動は後々「腰痛の原因」になるばかりでなく、背骨の望ましい成長を妨げる原因にもなる可能性があります。
2.誤った柔軟性の意味
一般的にいわれている「柔軟性」とは、「柔軟度」のことです。これは「関節の可動範囲」のことです。「柔軟性」とは、関節の可動範囲や筋肉の有効な収縮性、運動にかかわる脳との効率のいい連携などが総合的に関連してスムースでより可動範囲の広い「性質」を持つ筋肉のことをいいます。もちろん、これはあらゆるスポーツで求められ、役に立つものです。しかし、可動範囲イコール柔軟性ではありません。
3.外国のスポーツ選手は柔軟運動をしない
100mを9秒58で走るウサイン・ボルトは正座もできません。そのくらい足首が固いのです。それでもこの記録です。欧米のスポーツ選手でも可動範囲を大きくする練習はしないし、見かけません。必要がないからです。
一昔前まで運動中は水分をとるな、白い歯を見せるな(笑わない)と叱られてきましたが、今では「水分補給が大事」とか「もっと笑って」と正反対のことが求められるようになりました。「カラダの柔軟性」に対する考え方も、もうそろそろ変わってほしいものです。子ども達の健康を害し、「運動嫌いの子」をつくらないためにも。もちろん、学校で行う程度のマット運動やとび箱など体操という名の下に行われる場合でも「柔軟度」は必要ありません。
まっく体操クラブ 代表 向井忠義
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