《子ども時代は知識より体験量を》
ハッピーな伝言板 2022年5月号
この度、「子どもが心配」という本が、PHP新書から出版されました。脳学者で著名な養老孟司氏と宮口幸治(児童精神科医)、高橋孝雄氏(小児科医)、小泉英明氏(脳研究者)、高橋和也氏(自由学園学園長)の4氏との対談を本にしたものです。子育て中の方には是非読んでいただきたい本ですが、私が最もおすすめしたいのは、各章の底辺に流れているテーマが「子ども時代には体験が必要」という考え方です。胸膨らむ春です。子どもはもとよりまわりの大人にとっても大きな希望と期待の春でもあります。この時期、そんな「子どもの進路を決めるための参考」になればと今月は、このテーマにしました。
まっく体操クラブも創立以来40数年間、運動技術向上よりもカラダの健康づくりやバランスのとれた発育促進、子ども時代に「運動の楽しさを体験」、自分の心身の健康のために行う「運動の習慣」を身につけるなどを推進、指導を行ってきましたが、この考え方を裏付ける内容が満載であることです。
それら本に書かれていることやこれまでまっく体操クラブが伝えてきたことをさらに具体的に述べ、今後運動に対する考え方や自分にとって大切な運動の行い方を身につける参考にしていただきたいと思います。
1.子どもは感覚人間
子どもは「感覚人間」で大人は「理屈人間」です。わかりやすくいうと大人は話せばわかるけれど子どもは話してもわかりません。「言って聞かせる」はそれほど役に立ちません。話している「意味がまだわからないから」です。
例えば、転んだことのない子どもに「転ぶと痛いから走らないで」といっても「痛い」の意味が伝わりません。椅子から落ちたことのない子に「落ちるとケガをするから」といっても落ちたこともケガをしたこともない子には通じません。そればかりか、いって諭したのでわかっているだろうと思い込んで目を離すと大変な事故を起こすかも知れません。子ども時代は、大人がいう「言葉の意味がわかる」ようにいろいろな体験をさせることです。そのことでケガをしたり、骨折することがあるかも知れませんが、「いい経験をした」と病院に連れて行くことです。子ども時代のケガや骨折は結構早く治りますが、心の傷は見えないだけに後遺症の方が心配です。
2.辛い体験も大切
子どもの辛そうな顔は親にとっても悲しいことですが、あえて辛い体験や痛い体験、苦しい体験、いやな体験など親としてはさせたくないような体験が必要です。ところが親はどうしても子どもの先回りをして露払いのように振るまい「安全な環境づくり」を行いがちですが、それでは、子どもの抵抗力が育たず、「たくましい子」にはなれません。子どもは「かわいがる」必要はありますが、「甘やかす」ことは避けたいものです。(この2つの違いは紙一重で区別が難しい)子どもにとって「辛い体験」をすることは、後々人への思いやりや相手を責めない、傷つけないなど人としての資質向上に役立つ可能性が大です。「かわいい子には旅をさせる」ということでしょうか。
3.子どものいたずらは犯罪ではない
どこかの国(イギリス?)の誰か(心理学者)が言ったことで詳しいことを忘れましたが、子どものいたずらやふざけっこ、少しの不出来に「目くじらを立てない」ことです。「子どもは転びながら大きくなる」ともいいますが、転ぶことでいろいろなことを学び、心身の成長につながります。
ただ、「何をやってもいい」ということではないので、時には褒めたり、叱ったり、見守ってあげたりが必要です。その判断と行いがいわゆる「親業」です。ここでしっかり体験と教育を行わないといい大人になって「子どものようないたずら」をする人間になりかねません。
4.体験は、考えに立体性を持たせる
最近の事件の特徴は、傍から見ているとそんなことをしたら「後が大変なのに、どうしてそんなことをするのだろう」と思う事件が増えているような気がします。(私は警視庁で警察官の体育指導を2年間行っていたので、事件には関心があります)
これは、大人になっても思考回路に幼児性が抜けないからだと思います。子どもは、今日があるのは昨日があって、さらに今日が明日に続くのだ。という思考法がありません。今(今日)しかないのです。だから、急に道に飛び出す、高いところから飛び降りる、ところ構わず走りまわるなど「後先を考えない行動」をします。しかし、子ども時代に親の目の届く範囲でいろいろな体験をすることで徐々に「行いと結果が結びつき」考えと行動がしっかりしてきます。安全を確保しながら「体験の場」を与えてください。
5.運動には起承転結がある
例えばサッカーでゴールしようとするとき、どこに蹴ろうか、真ん中なのか、左端か右端かなどまず①考える(起)、②右端に決める(承)、③蹴る(転)、④結果がわかる(結)というふうに一つのこと(動作)を行うときに①~④を何度も繰り返し学習することになります。
スポーツをすると直ぐに「勝った負けた」にこだわりがちですが、子ども時代のスポーツは、こうしたことを繰り返し、思考方法や行動力を高めることにこそ価値があります。
私は、この仕事を始めて約60年になろうとしています。その頃から、「体験量」を増やすことが子ども時代には一番大切と考え今日まで来ました。60年が経過しても「できる教育」よりも「知る教育」の方が、心身のバランスのとれた子どもづくりには必要と考えています。
まっく体操クラブ代表 向井忠義
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